大きな災害が起こると家が壊(こわ)れてしまったり、ライフラインが止まってしまったりすることがあります。そういった人たちが家以外でも生活できるように、小学校や地域の公民館が避難(ひなん)所となります。避難(ひなん)所はホテルや民宿とは違いますので、自分たちでご飯を作ったり掃除(そうじ)をしたりといった、自主運営が重要となります。そこでどんなことに注意しないといけないでしょうか?
基本的に避難所は自分たちで運営します。物資を仕分けたり、食事の配膳を手伝ったりとやることはたくさん。
普段、家で料理していないんだけど…
一人で作るわけじゃないから大丈夫。子どもたちが配っていると、大人はあんまりクレームを言わないのでスムーズに進むとも言われています。
避難(ひなんじょ)所は集団生活となるので、普段(ふだん)よりも生活スペースを清潔に保つ努力が必要となります。
実際にどんなことをしたらいいの?
手をアルコールで消毒したり、土足禁止のエリアをはっきりさせたり、こまめに換気(かんき)することが必要です。また、当番制などできちんと掃除(そうじ)をしましょう。
体育館などの大きなスペースが避難(ひなん)所となる場合は多くあります。その際はそれぞれの家族の生活スペースや通路をはっきりさせるために区画整理を行うのが理想です。
寝(ね)るところと通路になるところをテープで分けるといいんだよね!
そうですね。その時、1家族ごとにダンボールなどで仕切りをつくることで、ある程度のプライベート空間をつくることもできます。また、特に女性に対しては着替(きが)えスペースや授乳(じゅにゅう)スペースを確保することも必要です。
避難(ひなん)所内でやるべきことを効率良く行うために、役割ごとに班を編成すると良いです。
どんな役割があって、どんな班が必要なの?
新しく避難(ひなん)所に入ってくる人を管理するための受付班や、避難(ひなん)所に送られてくる物資の受け入れや仕分け、時には救助活動などを行う緊急(きんきゅう)班、その他にも食事班や救護班などを編成すると良いでしょう。
避難(ひなん)所にずっといると、体を動かすことが少なくなります。この状態が続くと生活不活発病といって心肺(しんぱい)、血圧、関節、精神など様々な角度から症状(しょうじょう)が現れます。
毎日、運動したらいいんだよね。
そうですね。避難(ひなん)所内の掃除(そうじ)の他にも、毎朝ラジオ体操を企画(きかく)するのも効果的です。
避難(ひなん)所には入らず、小学校のグラウンドなどで車中泊(はく)をする人がいます。車の中は狭(せま)いので、窮屈(きゅうくつ)な生活や睡眠(すいみん)を強いられます。その結果エコノミークラス症候群(しょうこうぐん)といって肺(はい)の血液が急に詰(つ)まり、最悪死に至ります。2016年の熊本地震の時も大きな問題になりました。車中泊を見かけたら、一緒(いっしょ)に外で運動することを呼びかけたり、避難(ひなん)所内で睡眠をとることを勧(すす)めたりしましょう。
避難所という共同生活の場では、配慮しなければいけない様々な問題があります。
避難所は男性を中心に運営される傾向が強く、女性であるが故の不便やリスクがあります。
「避難所のトイレに生理用品を捨てる所がない」(熊本県益城町・16歳女性)
「仮設トイレは体育館の外で、電灯もなくて怖い」(熊本市・16歳女性)
「着替えるときは避難所から歩いて15分ほどの家に戻る」(同市・30代女性)
「女性だけの家族なので防犯面から車で生活をしている」(同町・69歳女性)
(平成28年熊本地震時の声、2016年4月23日付西日本新聞)
東日本大震災で被災者の集団移転を受け入れた栃木県が2013年に作成した防災ハンドブックには、以下のような注意すべきポイントが紹介されています。
□異性の目線が気にならない物干し場、更衣室、休養スペース等
□授乳室
□間仕切り用パーティションの活用
□乳幼児のいる家庭用エリア
□単身女性や女性のみの世帯用エリア
□安全で行きやすい場所の男女別トイレ(鍵を設置)・入浴設備の設置
(仮説トイレは、女性用を多めにすることが望ましい)
□ユニバーサルデザインのトイレ
□女性トイレ・女性専用スペースへの女性用品の常備
その他にも、「女性は当然のように、一日中炊きだしや片付けに追われた」との声もあり、「男は仕事、女は家庭」という固定されたジェンダー(性役割分担)意識の問題点をハンドブックは指摘しています。食事の準備や片付け、乳幼児や高齢者の世話、清掃やごみ処理のほか、男性に負担が偏りがちな行政との連絡調整なども、男女を問わず、できる人で共同作業することが大切です。
また、LGBTといった性的マイノリティの人たちもいることを管理運営する側が知っておく必要があります。
生活不活発病とは、災害や体調不良などをきっかけに生活が不活発になり、体を動かさない状態が長く続くことで心身の機能が低下する症状を指します。
それまで自分で行っていた掃除や炊事、買い物等などができなかったり、ボランティア等から「自分たちでやりますよ」と言われてあまり動かなかったり、心身の疲労がたまったりすることです。
その結果、筋力や心肺機能が低下し、日常的な動作にも支障をきたすようになり、精神面でうつ状態になったり、重症化して歩けなくなり、寝たきりになったりしてしまう例もあります。
2004年の新潟県中越地震で初めて認識され、11年の東日本大震災発生後にも多発したことから、厚生労働省や日本理学療法士協会などが注意を呼びかけています。
厚生労働省が作成したパンフレットによる予防のポイントです。
□毎日の生活の中で活発に動くようにしましょう。
(横になっているより、なるべく座りましょう)
□動きやすいよう、身の回りを片付けておきましょう。
□歩きにくくなっても、杖などで工夫をしましょう。
(すぐに車いすを使うのではなく)
□避難所でも楽しみや役割をもちましょう。
(遠慮せずに、気分転換を兼ねて散歩や運動も)
□「安静第一」「無理は禁物」と思いこまないで。
(病気の時は、どの程度動いてよいか相談を)
※ 以上のことに、周囲の方も一緒に工夫を
(ボランティアの方等も必要以上の手助けはしないようにしましょう)
※特に、高齢の方や持病のある方は十分気をつけて下さい。
若い皆さんには直接は関係しないかもしれませんが、周りにそのような人がいれば声をかけてみましょう。
災害による火災・水難・家屋の倒壊など災害の直接的な被害による死ではなく、避難生活の疲労や環境の悪化などによって、病気にかかったり、持病が悪化したりするなどして死亡すること。地震の場合は震災関連死ともいう。(デジタル大辞典)
復興庁によると、東日本大震災の震災関連死は、1都9県で合計 3,591人(2017年3月31日現在)。各自治体の発表によると、平成28年熊本地震の震災関連死は、合計181人(熊本県178人、大分県3人)。
熊本地震は建物の倒壊などの直接的な原因で亡くなった方が50人ですから、3倍以上がその後亡くなっているのです。
原因として熊本地震は、余震が多かったことから車の中で寝る人が多く、エコノミークラス症候群を発症した人が多かったのが特徴でした。エコノミークラス症候群とは、車の中など狭い場所で、長時間、同じ姿勢でいると、血管の中に血のかたまりができやすくなります。その血のかたまりが肺に移動して血管が詰まることで呼吸困難が起き、最悪の場合、死に至るというものです。また1995年の阪神淡路大震災ではインフルエンザの集団感染がありました。
災害から生き延び、助かったはずの命を失くすことは防がねばなりません。震災がつなぐ全国ネットワーク(震つな)は、災害関連死防止ポスターと解説冊子を作成し、啓発を行っています。その中では、以下のような人たちがいれば、お互いに声を掛け合うことが重要であると指摘されています。
□トイレに行けてない
□食べ物がそのまま残っている
□ずっと同じ服を着ている
□一人でぼうっとして動かない
□いつ休んでいるか分からない
□物資を取りにくそうにしている
冊子は、「医療や福祉の助けが必要となる状態にまで落ちてしまう前に、避難所に住む住民どうしやボランティア(外部の支援者)でもできることはあります」と強調しています。自分から声をかけられなくても、避難所の運営責任者、地域リーダー、外部ボランティアまで知らせましょう。