災害時における外国人支援の課題と現状

■増え続ける外国人
2017年末の在留外国人数は,256万1,848人で,前年末に比べ17万9,026人(7.5%)増加となり過去最高となりました。(法務省入国管理局発表)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00073.html
また、外国人観光客(インバウンド)の数も、2017年に2,869万人(前年比19.3%増)となり過去最高となりました。(観光庁発表)
https://www.tourism.jp/tourism-database/stats/inbound/

この増え続ける外国人といかに共生していくかは、日本のみならず先進国共通の大きな課題となっています。グローバル化が進み、人・モノ・カネ・情報の流動性(モビリティ)が高まり、特に異なる文化的バックグラウンドを持った人と交わることが増える中で様々な軋轢を引き起こしているのです。

具体的には、全体的に難民・移民を排斥するような言説が増え、英国のEU離脱(ブレグジット)は各国の極右政党の台頭、米国において移民に対してネガティブな発言を繰り返したトランプ大統領の当選など、ここ数年「多文化主義」に対する反動のような流れが出ています。

日本においても、在日コリアンに対する「ヘイトスピーチ」の問題から、ヘイトスピーチを規制する法律が2016年にできました。
ただこれから少子高齢化が進み、労働人口が減っていく日本は、今後ますます外国人を抜きには成り立たない社会になっていくのは間違いありません。

■災害弱者(要支援者)になりやすい外国人
皆さん、海外に旅行されている時、大きな災害に見舞われたらどうしますか?海外旅行をする際に、その国の災害対策についてチェックしていく人はほとんどいないでしょう。パニックになってしまうかもしれません。

そう考えると、日本に住んでいる、もしくは観光に来ている外国人がもし災害に遭ったらどうなるかと想像できるのではないでしょうか。実際、2018年6月の大阪北部地震では大阪駅でパニックになっている外国人観光客の姿がメディアで取り上げられていました。
外国人が日本で災害に遭った時に困ることの例を以下にまとめました。

(1)知識の問題
そもそも災害や、災害時にどう対応しないといけないか、また復旧・復興時における罹災証明をはじめとする生活再建の手続きについての知識がない人が多い。

(2)言語の問題
避難指示や避難所がどこにあるのか、救援物資はどこでもらえるのか等の情報にアクセスすることが難しい。防災放送は「輪唱」のようで聞きにくい上に、専門用語が多く日本語がわかりにくい。東日本大震災では「高台」という言葉が分からずに避難が遅れた外国人がいた。

(3)文化の問題
宗教や食事の習慣の違いによる、避難所での食べ物の問題や避難所運営のルールなど。

■災害時の外国人支援の取り組み
一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)では、以下のような取り組みをしています。

(1)災害時多言語表示シート
災害時の支援ツールとしてクレアHPから誰でも簡単操作で活用可能、12言語対応

(2)災害時に使用するピクトグラム(絵文字)・食材に関するピクトグラム(絵文字)
食材のピクトグラム>摂取できない食品についての意思疎通が容易に。

(3)避難所登録カード
外国公館等からの安否確認に有効、12言語対応

(4)災害時多言語支援センター設置運営マニュアル
外国人支援の拠点となるセンターの設置運営マニュアルを提供
東日本大震災、熊本地震でも設置し、外国人からの生の声を拾っている

(5)多言語情報作成マニュアル等
多言語情報を作成する上で役立つポイントをまとめた多言語情報作成マニュアル等を提供

詳しくはウェブサイトで紹介されています。
http://dis.clair.or.jp/

その他にも、弁護士と一緒に相談会を開くことで罹災後の手続き支援をしたり、食材を明記した食事を提供することにより宗教上の理由で食べられないものの対策をしたり、専門のNPO・NGOが訪問してニーズをヒアリングしたりといった取り組みがあります。

共通して言えるのは、発災前に外国人コミュニティとのつながりがどこまで構築されているかが重要ということです。2016年の熊本地震の時は、平時からつながりのある熊本市国際交流振興事業団がそのまま震災時の支援を行ったため、支援がとてもうまくいったと言われています。
その時の報告書もウェブサイトで紹介されています。
http://www.kumamoto-if.or.jp/topics/topics_detail.asp?PageID=6&ID=8887&LC=j&type=1

その中では、多くの外国人被災者の方々が一緒になって炊き出しに協力したり、高齢者住宅へペットボトルの水を配ったりといった「支援側」に回った事例も紹介されています。

一方で、在日外国人の生活を普段支援している国際交流協会が、「災害時対応は役所の防災課が担当する」というような縦割り意識になっているところも多いのが現状です。

■ニーズや現状を可視化することを心がける
IVUSAで災害現場に入っていても、外国人の方からのニーズや困りごとについての情報はほとんど入ってきません。では、外国人は困っていないのかというと、そんなことはないのです。

今回、水害の被害が大きかった広島県呉市は3,000人以上の外国人が暮らしています(ブラジル系が多い)。呉市は断水が続き、水へのアクセスが困難な状況でした。公衆浴場でお風呂のサービスが始まった後も、文化的な理由から人前で肌を見せるのができない人もいます。

その人たちの中には、水害後一回もお風呂に入っていないという女性もおり、衛生状態が極めて悪い状況に置かれていました。結果、膀胱炎や尿道炎を発症し、痛いので水を飲むのを控えていくと、今度は熱中症という死につながるリスクが高まります。
そのような人たちのためには、移動式の入浴車や個別シャワーといった別の支援が必要になります。ただそのような支援は、外国人だけが必要としているのではなく、障害を持った人や高齢者、妊婦さん、乳幼児など「災害弱者」の人たちは共通に必要としているものです。

そのためには、ニーズを上げてくれるのを待っているのではなく、出かけていってニーズを探すという「アウトリーチ」が重要です。そして、発災する前から「どのような支援を必要としている人がどこに住んでいるのか」という情報を把握していなければ、発災してからリサーチするのは簡単ではありません。

災害ボランティアに行った皆さん、ぜひ皆さんが住んでいる身の回りにも、目を向けてみてください。